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民法改正と不動産賃貸借契約

弁護士 松本史郎

平成27年10月15日更新

 平成27年2月10日、法制審議会民法(債権関係)部会による「民法(債権関係)部会による「民法(債権関係)の改正に関する要綱案」(以下「要綱案」といいます)が、審議期間約5年を経て決定されました。
 同年3月31日、要綱案に基づき、「民法の一部を改正する法律案」(以下「民法改正法案」といいます)が、平成27年度通常国会(会期末27年9月27日)に提出されましたが、今国会では成立しませんでした。現在、同法律案は閉会中審査の段階で、次国会で審議・審査の対象となります。
 
 不動産賃貸借契約に関し、現行民法と民法改正案では、どのような点に変更があるのでしょうか。
(1)  賃貸借契約の最長期間
   現行民法では、賃貸借契約の存続期間の上限を20年と規定しています。
 しかし、民法改正法案では、民法における賃貸借契約の存続期間の上限を50年としています。これは、借地借家法の適用のない駐車場契約、ゴルフ場敷地の賃借権、太陽光発電パネル設置のための敷地の賃借権などについて、20年を超えて賃貸借契約を締結する強い社会的ニーズがあることを反映したものです。
(2)  賃貸人たる地位の移転
   民法上、賃貸人たる地位の移転に関し、明文はありませんでしたが、民法改正法案では、これについて下記ア、イ、ウの内容の明文規定を設けています。しかし、その内容は、現行民法下で定着している判例通説の考え方を承継しているもので、後述のウの部分を除いて格別目新しいものではありません。

    (例)
           
         

   甲、乙の合意のみ(丙の承諾なし)で貸主の地位移転
   乙が貸主の地位を丙に主張するには物件の登記が必要
   貸主の地位を甲に留保するには@、Aが必要
     @ 甲、乙間で貸主の地位を甲に残す旨の合意をすること
 A 甲、乙間で乙を貸主、甲を借主とする賃貸借契約を締結すること(丙は転借人的立場)
   なお、ウの賃貸人たる地位の留保(新設)の規定は、賃貸不動産の信託による譲渡で、新所有者(信託の受託者)が修繕義務や費用償還義務など賃貸人としての義務を負わないようにするニーズや、旧所有者の不動産管理ノウハウに期待して旧所有者にそのまま賃貸管理をまかせる社会的ニーズがあることを反映したものです。
(3)   賃借人の原状回復義務についての判例通説の考え方の明文化
   民法改正法案では、判例法理を踏まえて、「賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この(3)に同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。」との規定を設けています。
 これによると、通常損耗、経年劣化による賃借物の損傷については、賃借人は、原状回復義務を負わないわけですから、賃貸人は、借主から預かっている敷金からこれらの損傷の修理費等を差し引くことはできないことになります。
 但し、上記の規定は、強行法理ではありませんので、当事者の「特約」で変更することは可能です。ただ、居住用の場合には、特約の内容によっては、消費者契約法でその「特約」が無効とされる可能性がありますので、「特約」によって上記規定を変更する場合には、弁護士に相談されることをお勧めします。
(4)  賃借物の一部滅失の場合の借主の契約解除権
   賃借物が一部滅失した場合に、残部のみでは、借主にとって賃借目的を達することができないときに、従来は一部滅失について借主に責任がある場合には契約解除は認められませんでしたが、民法改正法案では、一部滅失について、借主に責任があっても、契約解除ができることになりました(但し、貸主は、借主に対し、一部滅失についての損害賠償請求をすることは可能です)。
(5)  その他
   借主の修繕権の新設
   貸主の借主に対する借主の用法違反による損害賠償請求権は、貸主が賃貸物の返還を受けたときから1年間は時効が完成しない、とする規定の新設
   借主の賃借権に基づく妨害排除請求権の明文化
  などの点で改正がなされています。  
                                                                    

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