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下請法の概要について

弁護士 礒川剛志

平成28年10月5日更新

 民法の大原則の一つに“契約自由の原則”というものがあります。民法を勉強する際に最初に学ぶ原則ですが、私人間の法律関係は、その当事者の自由な意思に基づいて自律的に決定できるということであり、要するに契約を締結する場合にその内容は当事者で自由に決めて良いという考えです。
 このような契約自由の原則の言わば例外に当たるものとして、例えば、消費者を守るための消費者契約法、労働者を守るための労働基準法、賃借人を守るための借地借家法、そして下請業者を守るための下請法があります。
 一般的に立場が弱いと考えられる消費者や労働者、賃借人、下請業者を守るためにこのような法律が存在し、契約自由の原則を修正するわけですが、逆に事業者や雇用主、賃貸人、親事業者は各法令に違反しないよう注意しなければなりません。相手方の承諾があるとか、契約に定めがあるといった抗弁をしても各法令によりそれらが無効とされてしまうわけです。

 下請法(下請代金支払遅延等防止法)は、親事業者による下請事業者に対する優越的地位の濫用行為を取り締まるために制定された法律です。独占禁止法の特別法という位置付けになります。

 ある事業会社A社が倉庫における保管業務や清掃業務を下請事業者B社に業務委託していたところ、コスト削減のため、下請代金を支払う際に「協力金」名目で下請代金額に一定率を乗じた金額を差し引いて支払ったとします。仮にA社がB社の承諾なく、一方的に減額を実施したとすれば、それが許されないことは明らかでしょう。契約違反になります。では、A社がB社に「協力金」負担を依頼し、B社がこれを承諾した、さらにA社・B社間で「協力金」負担に関する覚書を締結したという場合はどうでしょうか。B社が承諾している以上、新しい契約が成立しており、契約違反にはなりません。
 しかしながら、この場合、A社とB社の各資本金の額により、両社の関係が下請法上の親事業者と下請事業者に該当する場合は、仮に上記のような覚書があったとしてもA社の行為は下請法違反(下請代金の減額の禁止・第4条第1項第3号)ということになってしまいます。たとえ下請事業者の同意があった場合も下請代金の減額は下請法上許されないからです。
 これに対して、同じA社とB社で、下請代金の単価交渉を行い、下請代金単価を下げ、契約を更新した場合はどうでしょうか。この場合は、その単価が著しく低い額の押し付けの場合に、買いたたきの禁止(第4条第1項第5号)に該当する可能性はあるものの、適正な単価修正である限りは下請法に違反しません。100円の単価を95円に単価修正する旨の合意はOKで、100円の単価のまま「協力金」5円を控除して支払う旨の合意はNGということになります。親事業者からすると一見、理不尽な気もする法律であり、うっかり違反してしまう可能性があることから十分注意が必要です。

以下、下請法のポイントを概説します。

 まず、下請法の適用がある場面かどうかということは2つのチェックポイントから判断されます。すなわち、①親事業者と下請事業者の各資本金と、②対象となる取引内容です。

① 親事業者と下請事業者の各資本金
    以下のいずかに該当する場合は下請法の適用の可能性があることになります。
  A)  資本金が3億1円以上の場合で、資本金3億円以下の会社や個人事業主に発注する場合 
  B)  資本金が1000万1円以上~3億円以下で、資本金1000万円以下の会社や個人事業主に発注する場合

   かかる基準に従って、資本金1000万円以下の会社が発注する場合には、下請法が問題となる余地はありません。また、資本金3億円の会社が資本金1000万円の会社に発注する場合は下請法が適用されますが、資本金1000万1円の会社に発注する場合には下請法は問題になりません。資本金の額が大きくなくても、大規模な会社というのは世の中に多数あると思うのですが、あくまで形式的な資本金の多寡の判断により、下請法の適用は判断されます。
 なお、放送番組や広告の制作、商品デザイン、製品の取扱説明書、設計図面などの作成等、プログラム以外の情報成果物の作成を取引内容とする場合、及びビルや機械のメンテナンス、コールセンター業務などの顧客サービス代金など、運送・物品の倉庫保管・情報処理以外の役務の提供の場合には上記基準とは異なる資本金区分で判断されるので注意が必要です。

② 対象となる取引内容  
   下請法の規制対象となる取引は、A)製造委託、B)修理委託、C)情報成果物作成委託、D)役務提供委託の4つに大別されます。
 逆にこれらの4つの類型に該当しない場合は、下請法の適用はありません。大規模な会社が小規模な会社から既製品である部品を購入する場合でも、単なる売買取引であり、下請法の適用はないということになります。

 上記のようなチェックをした結果、下請法の適用がある取引ということになれば、親事業者は、以下のような義務を負います。

 1) 書面の交付義務(第3条)
 2) 支払期日を定める義務(第2条の2)
 3) 書類の作成・保存義務(第5条)
 4) 遅延利息の支払義務(第4条の2)

 業界によっては口頭での発注が常態化している業界もあるかとは思いますが、下請法の適用がある場面では書面を作成し、かつ取引に関する記録を書類として作成して2年間保存することが義務付けられています。

 さらに親事業者の禁止事項が下請法上以下のとおり規定されています。

 ア.受領拒否の禁止(第4条第1項第1号)
 イ.下請代金の支払い遅延の禁止(第4条第1項第2号)
 ウ.下請代金の減額の禁止(第4条1項第3号)
 エ.返品の禁止(第4条第1項第4号)
 オ.買いたたきの禁止(第4条第1項第5号)
 カ.購入・利用強制の禁止(第4条第1項第7号)
 キ.報復措置の禁止(第4条第1項第7号)
 ク.有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止(第4条第2項第1号)
 ケ.割引困難な手形の交付の禁止(第4条第2項第2号)
 コ.不当な経済上の利益の提供要請の禁止(第4条第2項第3号)
 サ.不当な給付内容の変更及び不当なやり直しの禁止(第4条第2項第4号)

 勧告事案で多いのは、ウ.減額の禁止、エ.返品の禁止、コ.不当な経済上の利益の提供要請の禁止の3つではないかと思われます。ウ.減額の禁止とは、親事業者は、発注時に決定した下請代金を「下請事業者の責に帰すべき理由」がないにもかかわらず発注後に減額してはならないというものです。「歩引き」、「リベート」、「システム利用料」、「協賛金」、「協力金」その名目は問わず、たとえ下請事業者と合意していても、下請代金を減額することはできません。エ.返品の禁止とは、下請事業者から納入された物品につき、その物品に瑕疵がある等の下請事業者に責任がある場合を除いて、受領後に返品してはならないというものです。販売期間が終了し在庫となった季節商品を下請事業者に引き取らせるような場合が該当します。コ.不当な経済上の利益の提供要請の禁止の例としては、セールの販売活動の手伝いとして、下請事業者から無償で人員を派遣してもらうといったものがあります。

 上記のような禁止事項に親事業者が違反していないか、公正取引委員会と中小企業庁が毎年、下請事業者に書面でアンケートをする等して監視しています。また、特定の下請事業者と何らかのトラブルが発生した場合に、その下請事業者が公正取引委員会に相談に行き、下請法違反の事実が発覚するというケースもよくあります。この場合、公正取引委員会の検査の対象となるのは、相談に来た下請事業者との取引だけではなく、過去2年間の全下請事業者との取引が検査の対象となってしまう可能性があります。
 公正取引委員会の検査が開始することになった場合には、取引記録の提出が求められ、場合によっては立入検査が実施されます。そして、結果として下請法違反の事実が認められた場合には、単なる指導で終わる場合もあるものの、その違反の程度によっては再発防止などの措置を実施するよう勧告され、公正取引委員会のウェブサイトで会社名とともに、違反事実の概要、勧告の概要が公表されてしまいます。
 前記の下請代金の減額の禁止の事例では、「①『○○』と称して下請代金の額から減じていた額(総額○○円)を下請事業者に対して速やかに支払うこと、②前記の減額行為が下請法の規定に違反するものである旨及び今後、下請事業者の責に帰すべき理由がないのに下請代金の額を減じない旨を取締役会の決議により確認すること、③今後、下請事業者の責に帰すべき理由がないのに下請代金の額を減じることがないよう、社内体制の整備のために必要な措置を講じるとともに、その内容等を自社の役員等に周知徹底すること。④前記①、②及び③に基づいて採った措置を取引先下請事業者に周知すること。」というような勧告がなされます。親事業者は勧告内容に従った改善報告書を提出することになります。
 そして、下請代金の減額の禁止の事例では、勧告の上記①との関係で、当該親事業者は、過去2年間の全下請事業者との取引に関して減額していた総額を全下請事業者に支払わなければなりません。事業規模にもよりますが、場合によっては数千万円から数億円を支払わなければならない可能性があります。仮にこれを拒否した場合は、独占禁止法に基づく排除措置命令や課徴金納付命令がなされることになるので、事実上は勧告に従わざるを得ないという判断になります。

 冒頭に説明したとおり、下請法は、契約自由の原則のいわば例外であることから、「業者の同意があるからOK」と現場レベルで判断してしまい、結果、気づいたときには下請法違反の状態が長年継続していたいう事態が容易に発生します。突然、公正取引委員会の立入検査を受け、不名誉な法令違反企業として会社名を公表され、挙句に過去の取引に関して数千万円も支払わなければならないといった事態を避けるためには、①外注担当者に下請法の内容を周知させる、②定期的に内部監査を行うことによりコンプライアンスを徹底させるといった対策が重要です。私の過去の経験から言っても公正取引委員会の検査が開始された段階で、抗弁を述べることによって勧告を回避するのはなかなか難しいという実感があります。日頃から下請法違反の状態を発生させないことがリスクマネージメントとして必要です。
 以上
                                                                    

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