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自筆証書遺言の花押について(最判平28.6.3)

弁護士 松本史郎

平成29年7月5日更新

1  XとYは、亡Aの相続人です。Xは、Yに対し、Aの自筆証書遺言(以下「本件遺言書」といいます)により、A所有の土地の遺贈を受けた、と主張しましたが、A作成の自筆証書遺言には印章による押印がなく、いわゆる花押(自署が図案化、文様化して署名の代わりに使用される記号、符合。YahooやGoogle等の検索サイトで「花押」と検索していただければ、具体的な花押を見ることができます)が書かれていたことから、自筆証書遺言が有効になるための形式的要件(民法968条1項)を満たすか否かが争われました。

 原審は、本件遺言書の花押は民法968条1項の押印の要件を満たすとして、本件遺言書を有効と認めました。
 しかし、その上告審である最判平28.6.3(以下「本判決」といいます)は、「民法968条1項が自筆証書遺言の方式として、遺言の全文、日付及び氏名の自署のほかに、押印をも要するとした趣旨は、遺言の全文等の自署とあいまって遺言者の同一性及び真意を確保するとともに、重要な文書については作成者が署名した上、その名下に押印することによって文書の作成を完結させるという我が国の慣行ないし法意識に照らして、文書の完成を担保することにあると解されるところ、我が国において、印章による押印に代えて花押を書くことによって文書を完成させるという慣行ないし法意識が存するものとは認め難い」として花押を書くことは、印章による押印と同視することはできず、民法968条1項の押印の要件を満たさない故、本件遺言書は無効である、と判示して原審の判決を破棄しました。

 自筆証書遺言は、文字の書ける人であれば誰でも作成でき、費用もかからず、しかも作成の事実を誰にも知られないなどのメリットがありますが、本判決のように方式不備で無効とされる可能性が高く、その内容の真意が争われる可能性も高いといえます。また、公証役場に保存されるわけでないため、偽造、変造、紛失、滅失のおそれがあるという大きなデメリットがあります。
 これに対し、公正証書遺言は、その原本が公証人役場に20年間保存され、紛失、滅失などのおそれがありません。また、専門家が関与するため、遺言書の意思を正確に実現することができ、また方式の違反によって遺言が無効とされる可能性も大変低いといえます。手続的にも、一見面倒そうに見えますが、実務的には大変簡単なものとなっていますので、遺言は原則、公正証書遺言によって作成されることをお勧めします。
 以上
                                                                    

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