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改正民法における法定利率の定めと損害賠償の計算

弁護士 相内真一

平成29年11月2日更新

 債権法を含む民法の大改正が行われ2020年度には施行されると言われています。
改正部分の中で、金銭的な請求額に直結する部分があります。それは、「中間利息の控除」の局面における「法定利率」の改正部分です。
 今回はそれについて説明したいと思います。

 現行法では、民法所定の法定利率は年5分(民法第404条)、商事法定利率は年6分(商法第514条)です。
 この「法定利率」とは何でしょうか?
 当事者間の合意の中に利率の約定の無い場合には、利息金と遅延損害金の計算の際、この法定利率が適用されます。当事者間で、利息と遅延損害金について、この法定利率と異なる利率を合意することは、勿論自由ですが、利息制限法の制限があるとともに、出資等の受け入れ、預り金及び金利の取り締まりに関する法律で高金利に対して懲役と罰金を科すことが定められています。
 しかし、身内や友人同士の個人的な取引は別として、契約社会においては、利率の定め、遅延損害金率の定めが無い契約書は、まず有りません。
 では、どのようなケースで、この法定利率が「幅を利かす」のかというと、それは、「中間利息の控除」の場面です。

2   最もわかりやすいのが交通事故等で被害者が死亡し或いは後遺障害により労働能力を喪失したケースの損害賠償額算定の局面です。事故が無ければ被害者が将来得ることができた筈の収入、即ち、逸失利益は、損害賠償額の計算の中で、慰謝料とともに重要な計算項目です。
 例えば、交通事故で被害者が20歳で亡くなった場合の逸失利益について考えてみましょう。
まず、20歳の被害者の就労可能年数は47年間とされています(大阪弁護士会交通事故委員会発行の資料による、以下、同様)。
 被害者が、大学生の死亡事案であれば、原則として「全労働者の学歴計・全年齢平均賃金」という 統計資料に基づいて基礎収入を割り出した上で、
   【基礎収入(被害者の年収)−被害者の生活費】 × 47年間に対応する「係数」
という数式を用いて逸失利益を算定します。この「係数」はライプニッツ係数と呼ばれる係数を使うことになっています(確定判例)。

 将来得られる筈の収入の額を、「将来ではなく現時点で受取る場合の計算」をする際には、このような係数を利用する中間利息の控除計算がどうしても必要です。
 簡単な例を挙げてみましょう。例えば、「10年後に1000万円払ってもらえる債権」があったとします。その債権を、「今、譲ってもらうとした場合の譲渡価格」を考えてみてください。「10年後に1000万円になる債権」ですから「現時点の値打ちは1000万円以下」というのは明らかです。
別の言い方をすると、「現時点の譲渡価格 + 10年間の利息金」の合計額が1000万円になるという考え方もできます。
 つまり、将来得られる収入額の値打ちを現時点で定めようとすれば、上記の「1000万円から10年間の利息金」を「控除」する必要があるわけです。この控除の計算に際して用いられるのが法定利率に基づいて算定されたライプニッツ係数です。

 損害賠償の実務では、長年、中間利息の控除に際して、年5分と言う利率に基づくホフマン係数、後にはライプニッツ係数が使用されてきました。
 現実問題として、昭和50年代〜平成の初頭までの間であれば、年利回りが7〜8%、つまり、年5分を上回る金融商品がありました。株価も土地価格もどんどん上昇していました。しかし、現在は、メガバンクの定期預金の年利は1%どころか、0.001%程度の商品も珍しくありません。
 ですから、法定利率を固定しておくと、経済事情の変動次第で、法定利率に基づいて算定される「中間利息の額」と「現実に入手可能な中間利息の額」とが、大きく乖離してしまうという問題がありました。これについて、従来、裁判所の考えは、経済事情が変動しても、「法定利率(年5分)と異なる利率を前提とする中間利息の控除は認めない」という態度を基本的に堅持してきました。
 今回、この民法所定の利率の定め方が改正されました。

5   改正法第404条では、法定利率そのものを5%から3%に引き下げるとともに、3年ごとに見直しをして、1%単位で変更すると定められました。
 昨今の経済事情を勘案すると、この改正の後も、4項で述べた「現実に入手可能な中間利息の額」との乖離はまだ大きく残っています。しかも、変動させるためには、短期プライムレートが1%以上変動することが必要ですので、「大きな乖離」が短期的に是正されることは望めません。しかし、今後、日時の経過とともに、その乖離幅は、徐々に少なくなっていくものと思われます。

6 

 ところで、「3%で中間利息を控除」した場合と「5%で中間利息を控除」した場合とで、どれだけ結果が異なるのかを試算してみます。
 2項で例に挙げた20歳の人が交通事故で死亡された場合の計算で、
    年利5%のライプニッツ係数は  17.981
    年利3%のライプニッツ係数は  25.501
とされています。
    【基礎収入(被害者の年収)−被害者の生活費】 × 47年間に対応する「係数」
という計算式ですから、3%の計算の方が、賠償額が4割も上回っていることになります。
 その意味で、現時点の経済情勢を前提とすると、この改正は、被害者に有利な改正と言うことが出来ます。その反面、保険会社にとっては保険給付額が相当増大することになります。

 以上
                                                                    

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