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プロバイダ責任制限法の改正について    (弁護士 寺中良樹)

近時、いわゆる滋賀呼吸器事件で、再審無罪が確定した西山美香さんが国と滋賀県に損害賠償を求めた訴訟で、滋賀県が西山さんを犯人視する準備書面を提出し、問題とされる、ということがありました。
実は、刑事事件で無罪とされた事件について、民事事件で責任が認められるということは、理屈的にはあり得ます。たとえば、刑事事件で殺人罪が嘱託殺人罪に認定落ちした(被害者の承諾があったとされた)後、遺族が加害者に対して損害賠償請求を行い、民事訴訟では(真意に基づく)承諾がないとされた案件(千葉地裁令和3年1月13日判決平成29年(ワ)第366号)があります。
しかし、本件はその案件とはシチュエーションがまったく異なりますし、捜査機関側が、いったん確定した無罪判決を否定する弁論をする、というのは、訴訟態度としては相当な問題だと思います。そもそも、この問題に対して直ちに知事と県警本部長が謝罪するというのは、県としての訴訟方針が固まっていないことを示すもので、みっともないことです。

前置きが長くなってしまいましたが、令和3年4月21日に、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(いわゆる「プロバイダ責任制限法」)の一部改正法が成立しました。
インターネット上の誹謗中傷などによる権利侵害について、より円滑な被害者救済を図るための改正です。その概要は以下のとおりです。

1 新たな裁判手続きの創設

現行の手続きでは、発信者を特定するため、基本的には2回の裁判手続き(サイト管理者に対する手続きと、接続プロバイダ(ISP)に対する手続き)が必要です。これらの事業者は、一定期間(たとえば3ヶ月から6ヶ月程度)しか発信者情報を保管していないことも多く、「時間切れ」のため発信者の探索が行き詰まることも多くありました。
これを改善するため、改正法では、発信者情報の開示を一つの手続きで行うことを可能とする「新たな裁判手続き」(非訟手続)を創設することになりました。この手続きでは、概要、以下の流れになります。
(1)  申立人はまず、サイト管理者を相手方とする発信者情報(IPアドレスなど)の開示命令を裁判所に申し立て、同時に「提供命令」の申し立てをします。
(2)  提供命令が発令されると、サイト管理者から申立人に対し、ISPの氏名等情報が提供されます。
(3)  これを受けて申立人は、ISPに対する開示命令と、(発信者情報)消去禁止命令の申し立てをします。
(4)  申立後、これをサイト管理者に通知すると、サイト管理者はIPアドレス等の情報を提供し、申立人はこれを開示命令に利用することになります。
これらの手続きは、文章にすると複雑ではありますが、実際には一体の手続きとして同じ裁判所で行うことが予定されており、2つの裁判を行うよりも迅速に手続きが進むことが期待されます。特に、多くの場合に日本の裁判所に管轄権を認める規定(9条)は、近時代理人を悩ませている外国送達問題(相手方が海外事業者であることも多く、その場合、外国に正式ルートで裁判の書類を送達する必要があり、非常に長い時間を要します)を解決するものであり、代理人としては非常に歓迎すべき改正です。

2 ログイン型サービスにおける発信者情報開示請求手続き
SNSなどのログイン型サービスでは、投稿時の通信記録が保存されない場合があり、その場合はログイン時の情報の開示が必要です。
このような場合に、ログイン時の情報開示を行うための規定の整備が行われました。

3 その他
開示請求を受けた事業者が発信者に対して行う意見照会において、発信者が開示に応じない場合は、理由を併せて照会しなければならないこととなりました。もっとも現在でも、定形書式では理由を記載する欄がありますので、この部分は、現在の手続きを特に変更する改正ではないように思われます。

以上

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