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預貯金が遺産分割の対象となることに関する最高裁判決

弁護士 寺中良樹

平成29年1月17日更新

 遺産分割の対象に預貯金が含まれるか否かが争われていた裁判で、最高裁大法廷は平成28年12月19日、預貯金が遺産分割の対象となる旨の判決をしました。
 これまでの判例や実務では、預貯金は遺産分割の対象とはされていなかったので、最高裁はこれまでの判例を変更したことになります。この裁判は大法廷に回付されたと報道されていましたので、判例変更は予想されていましたが、相続の実務にも大きな影響を与えるものであり、私達法律実務家にとって昨年一番と言っても良いビッグニュースだと思います。
 この判決の影響や分析については既に様々なところで行われているようですが、おさらいを兼ねて、この判決についてご説明します。

 まずこれまでの判例は、預貯金は遺産分割の対象とはならないとしていました。これは、預貯金も金銭債権の一種であり、遺産分割手続を行うまでもなく、法定の相続分に従って直ちに分けられているから、改めて分割することはできない、という理由でした。
 この判例により家庭裁判所は、遺産分割審判において預貯金を除外して分割審判をしていました。しかしそうすると、たとえば長男に家、次男に預貯金といった判断をすることができず、事案に即した解決ができない場合がありました。あるいは生前贈与を多くもらっている相続人ともらっていない相続人がいた場合、もらった生前贈与を適切に遺産分割に反映させることができない場合がありました(遺産の全部とかほとんどが預貯金であった場合、そのようなことになることがあります。本判決の事案はそのようなものであったようです)。
 このような不都合がありましたので、これまでも、審判ではない遺産分割調停(裁判所内での話し合い)では、預貯金も含めて解決協議することが通例となっていました。しかし調停はあくまで話し合いですので、当事者が預貯金を含めた解決をあくまで拒否した場合、それを覆す法律的な手続はありませんでした。
 この判決の結論は、このような不都合を回避しようとするものです。

 この判決により、これまで法律に従って機械的に分けられていたものが分割審判に持ち込めることになりましたので、遺産分割の解決が裁判所に持ち込まれることが増えることが予想されます。

 そして見逃せない影響は、故人の預貯金を遺産分割協議成立前に引き出すことが、事実上できなくなることです。これまでは、預貯金は当然分割、という理屈の結果、相続人は自分の法定相続分の限度では当然に金融機関から預貯金を引き出すことができていました。この点について以前は、金融機関が相続人全員の了承がないと引き出しに応じられないと言い張ることもよくありましたが、当然分割の理解が次第に広がり、金融機関も一部引き出しに応じることが多くなってきていました。
 しかし今回、判決が当然分割を否定しましたので、金融機関は一部引き出しに応じる必要がなくなり、逆にこれに応じた場合、後で他の相続人から責任を問われる恐れが出てきます。そのため金融機関は、全員の印鑑が揃わないと引き出しに応じない扱いに戻すことが予想されます(現時点で判決から約1ヶ月が経過しましたが、既に多くの金融機関が一部引き出しに関する取り扱いを変更しているようです)。
 たとえば故人の葬儀代などは、近時故人の預貯金から支出することが増えているのではないかと思います。また故人の生前の医療費や税金などを預金から支払う必要がある場合もあるでしょう。そのような場合に迅速な処理ができず、不都合が生じる場合が増えてくるものと予想されます。
 遺産相続に争いがある場合のみならず、相続人に行方不明とか音信不通、遠方海外居住の人がいる場合に、このような不都合が発生することがあります。

 判決を読むと、このような不都合に対していくつかの意見が述べられているのですが、これは多少専門的な話ですので後回しにして、実際的には、それぞれの人が自分の亡後のために、遺言を書いて遺言執行者を指定しておく(遺言執行者には単独で預金を引き出す権限を与えることができます)ことがますます重要になってくるのではないかと思います。

 ここからは多少専門的な話になりますが、この判決は、個別裁判官の意見がいくつか付記されていることが目につきます。
 その中で大谷裁判官ほか5名の補足意見では、上記の不都合に関して仮処分手続を活用したらどうか、というようなことを言っています。しかし、一般の方々にとって、必要がある度に仮処分の手続を取るというのは結構非現実的な話ではないかと思います。
 これに対して大橋裁判官意見は、預貯金が当然分割という以前の判例理論を維持しながら、遺産分割審判の対象にもなる、という見解を取っているようです。
(ちなみに「補足意見」というのは、多数意見の補足で、「意見」というのは、本件事案における結論が同じだが理由が違うというものであり、本件においては実質反対意見となっています。)
 この意見が採用されなかったのは、理論的な説明に難があったからだと思いますが、素朴な感想としては、当然分割でありながら遺産分割の対象にもなる、という結論が欲しかったところです。
 以上
                                                                    

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