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賃貸ビルの事故と法的責任

弁護士 小西宏

平成29年6月5日更新

 今回のリーガルトピックスでは、賃貸ビルの事故と法的責任に関して簡単にご説明いたします。賃貸ビルの賃貸人、オーナーだけでなく、賃借人(入居者)も知っておいて損はない知識かと思います。

賃貸人の賃借人に対する責任−契約上の損害賠償責任(債務不履行責任)
 
 賃貸人は賃借人に対して、賃借物件を使用収益させる契約上の義務があるので、火災等の事故により、店舗や事務所の全部または一部使用できなくなった場合に、その損害を賠償する責任を負います。
・   ただし、損害賠償責任が認められるためには、その事故の原因について、賃貸人に過失がある場合に限ります(火災の原因が第三者による場合等は責任を負わない)。
・   もっとも、賃貸人本人の過失ではなくても、賃貸人の雇用している従業員に過失があった場合等も含まれます。

賃貸人の第三者に対する責任−工作物責任
 (1) 工作物責任(民法717条)とは・・・
 
・   民法717条 
 
土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。 
・   土地の工作物とは、建物そのもののほか、塀・石垣等も含みます。
・   設置・保存の瑕疵とは、その建物等が通常備えているべき安全性を欠いていることをいいます。
 工作物責任の第一次的責任は、占有者(その建物を事実上支配している者。賃貸借契約でいうと賃借人)が負います。占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者(ビルオーナー)がその損害を賠償しなければならないという規定になっています。

 (2) 賠償の範囲
   ビルの占有者や所有者が賠償すべき損害(賠償の範囲)としては、例えば以下のものがあります。
   
   人の生命・身体が害された場合 
  ・ 治療費
・ 死亡慰謝料・後遺症慰謝料・入通院慰謝料
・ 休業損害
・ 逸失利益(死亡した場合や後遺症が残った場合、将来健康に働いていたならば得られたであろう収入をいう)
 イ  財産が侵害された場合
   その財産の価値(原則的には時価基準)
 ウ  その他関連性(因果関係)のある損害についても含む

 (3) 事例紹介  
   東京地裁H13・11・27判決の事例では、商業ビル内の食堂街の通路を歩行中の者(当時67歳の女性)が、通路に付着していた油等によって転倒・負傷した事故について、ビルの所有者に工作物責任に基づいて損害賠償請求がされたところ、上記各項目の損害を認め、合計でビル所有者に約2262万円の損害賠償責任が認められました。

対策
   一度事故が起こると、ビルオーナーなどは多額の賠償責任を負う可能性もあります。そのため、十分な対策が必要不可欠です。

【対策の例】
・  ビルの施設に起因するあらゆる事故を想定して、事故が起こらない仕組みを作る。
定期的にビルのメンテナンスを行なう。
事故が起きたときは、関係各所(警察署や消防署等)に届けでるほか、速やかに現場を保全(写真撮影等の証拠の確保)し、原因調査を行なう。
万一の事故に備えて施設賠償責任保険等の保険に加入し、賠償リスクに備える。
法的手続に備えて早い段階で弁護士等の専門家に相談する。
  など
 以上
                                                                    

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