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相続法の改正について

弁護士 松本史郎

平成30年10月1日更新

  かねてから法制審議会において審議されてきた相続法の改正(以下「新相続法」といいます)が平成30年度の通常国会において、平成30年7月6日成立し、同月13日に公布されました。
 新相続法は、原則として平成31年7月13日までには施行されます(例外として自筆証書遺言の要件緩和の規定は、平成31年1月13日に施行され、配偶者短期居住権、配偶者長期居住権の規定は、平成32年7月13日までに施行されます)。

2   改正項目は多岐にわたりますが、身近でかつ主要な改正項目を以下で説明します。
 (1)   配偶者が相続開始のときに、被相続人の建物を無償で使用していた場合に、遺産分割により建物の帰属が確定した日又は相続開始から6か月を経過する日のいずれか遅い日までの間、無償で建物を使用する権利(配偶者短期居住権)が認められました。
 (2)   配偶者が相続開始のときに、被相続人の建物を使用していた場合に、終身又は一定期間の建物を使用する権利(配偶者長期居住権)が認められました。
(この場合、配偶者が長期居住権を取得するためには、被相続人が配偶者に長期居住権を取得させる遺贈、死因贈与等をしておくことが必要です。)
 (3)   婚姻期間が20年以上の夫婦のどちらかが死亡した場合に、被相続人から配偶者に遺贈又は贈与された住居(建物又は土地の全部又は一部)は、遺産分割の対象にしない(理論的に表現すると、持ち戻し免除の意思表示があったものと推定される)、との制度が創設されました。つまり、遺産額4000万円の遺産(うち1000万円が居住用不動産)分割に際し、妻が居住用不動産1000万円を取得した場合、従前であれば、妻の相続分が2分の1とすると、妻の遺産分割の取り分が1000万円(計算:4000万円×1/2-1000万円=1000万円)でしたが、新法であれば、1500万円(計算:(4000万円-1000万円)×1/2=1500万円)が妻の取り分となり、新法の方が妻にとって有利となります。
 (4)  遺留分権利者が遺留分の侵害を受けた場合にする請求が、金銭の支払請求となるように改正されました。
 従来は、不動産の贈与の一部が遺留分を侵害している場合、遺留分権利者が遺留分減殺請求をすると、請求された側が価格弁償の抗弁を出さない限り、遺留分権利者と遺留分減殺請求を受けた者が不動産を共有する形となり、その後は共有物分割請求で解決することになっていましたが、今回の改正で遺留分減殺請求権を「具体的金銭請求権の発生」という法律関係を形成する権利と位置づけられました。
 (5)  死亡前にされた相続人への贈与(特別受益)のうち、遺留分額の算定の対象となるものを死亡前10年間にされたものに限定するよう改正されました。
 従来は相続人への贈与(特別受益)については、何十年も前になされた贈与でも遺留分額算定の対象となっていました。

 (例)
 遺産1億円、過去にずっと遡った贈与額3000万円、過去10年の贈与額1000万円、遺留分権6分の1とします。
従来では、(1億円+3000万円)×1/6-3000万円=マイナス833万円となり、遺留分減殺請求で取り分はゼロとなりますが、新法では(1億円+1000万円)×1/6-1000万円=833万円となり、遺留分権利者の取り分は833万円となります。


   
 (6)  遺産分割の審判又は調停の申立があった場合に、裁判所が一定の場合に共同相続人の一人に預貯金の全部又は一部を取得させることができる制度が創設されました。
 従来は、原則として遺産分割が調わないと、預貯金の引き出しが出来ませんでした。しかし、100万円単位の葬儀代や当面の生活費など遺産分割を待っていられないこともあります。そこで、預貯金×1/3×法定相続分が単独で引き出せることになりました(但し、法務省令で定める額(多分100万円くらい)が限度となります)。
 (7)  遺産の一部の分割もできる規定が創設されました。
 これは、実務的には実際に行われていたことの明文化です。
 (8)   自筆証書遺言の原本を法務局に保管を委ねる制度が創設されました(「法務局における遺言書の保管等に関する法律」)。
 (9)   自筆証書遺言において、相続財産の目録については自署が不要となりました。
 (10)  相続人ではない親族が無償の療養、看護や業務の提供をした場合に、相続人に対し、金銭(特別寄与料)の支払いを請求できる制度が創設されました。
 例えば、長男の嫁が義理の親(夫の親)の介護などをしても相続分はもちろん寄与分さえも認められませんでしたが、今回の改正によりそれが認められるようになりました。

 その他、まだ多くの改正項目がありますが、専門的な事項が多いので、個別的には弁護士に相談されることをお勧めします。

以上 
                                                                    

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