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契約書における合意管轄条項、及び国際取引の紛争処理条項について

弁護士 礒川剛志

令和5年1月5日更新

顧問契約をしている企業から日常的に契約書チェックの依頼を受けていますが、ほぼ全ての契約書で問題になる条項として、合意管轄条項があります。

管轄とは、当事者間で紛争が発生したときに、どこの裁判所で裁判をするかという問題です。契約書でよくある合意管轄条項は以下のようなドラフトです。

第○条(合意管轄)
本契約に関連して当事者間に紛争を生じた場合には、東京地方裁判所または東京簡易裁判所を第一審の専属的管轄裁判所とする。


このような条項により、仮に紛争が生じた場合は、東京地方裁判所(訴額が小さい場合は東京簡易裁判所)に訴訟を提起することになります。また、「専属的」とされていることから、逆にそれ以外の裁判所には訴訟の提起ができないことになります。

契約書上、合意管轄条項がなければ、民事訴訟法によって訴訟を提起する裁判所が決まることになり、場合によっては思わぬ遠隔地の裁判所で裁判をしなければならない可能性もあります。

例えば、大阪の企業が取引先から大阪地方裁判所に訴訟を提起された場合、大阪の顧問弁護士に依頼して、打合せも大阪でできますし、弁護士の交通費や日当もかかりません。

これに対して、大阪の企業が東京地方裁判所で訴訟を提起された場合、東京の弁護士に依頼して打合せの度に担当者が東京出張するか、大阪の弁護士に依頼して、裁判の度に交通費や日当を払うかという事態が生じることになります。このような事態は、係争額が大きな事件の場合は相対的に大きな経費にはなりませんが、係争額が小さな事件の場合は大きな経費となります。大阪の企業が取引先に未払金100万円を請求するために、東京の裁判所で訴訟を提起するのは、費用倒れになるリスクがあるわけです。

このことから分かるとおり、大阪の企業であれば、大阪地方裁判所を合意管轄裁判所にすることが有利ということになります。この点、大阪の企業と、東京の企業が契約締結する際に、どちらの当事者も自社に有利な条項にしたいと考えると、交渉が行き詰まることになります。そのような場合は、どちらの企業が交渉上、立場が強いかで決まることも多いですが、立場の弱い企業から以下のようなドラフトを提案することもあります。

第○条(合意管轄)
本契約に関連して当事者間に紛争を生じた場合には、被告となる当事者の本社所在地を管轄する地方裁判所または簡易裁判所を第一審の専属的管轄裁判所とする。

この合意管轄条項であれば、大阪の企業が東京の企業を訴える場合は、東京地方裁判所に訴訟提起、逆に東京の企業から訴えられる場合は、大阪地方裁判所で、とある意味、どちらの当事者に有利ということもない公平な内容ということになります。

さらに海外の企業と国際取引に関わる契約書を締結する場合は、準拠法(Governing Law)と紛争処理条項(Dispute Resolution)が重要になります。ここでいう準拠法とは、契約条項の解釈の基準としてどこの国の法律を適用するかという問題です。例えば、日本企業とタイ企業間の販売契約につき、日本法を適用すればAという解釈になるが、タイ法を適用すればBという解釈になるということがありうるわけです。日本企業からすれば、タイ法の内容はローカルの弁護士に確認しない限り分からないわけですから、当然、準拠法は日本法が有利ということになります。

国内取引の場合、紛争処理に関しては、前述のとおり、どこの裁判所で解決するのかを定める合意管轄条項を付けるのが一般的でした。これに対して、国際取引の場合は、そもそも裁判所による裁判という紛争処理方法で良いのか、あるいは国際仲裁機関による仲裁(Arbitration)が良いのかというところから考え、さらにその場所をどこにするのかということを考えることになります。

何故、国際取引の場合に、裁判ではなく、仲裁にするケースが多いのかと言えば、例えば、タイ企業相手の契約書で大阪地方裁判所を専属的合意管轄裁判所に指定したとして、実際に紛争が生じて大阪地方裁判所で裁判をしたとします。そこで日本企業が勝訴判決を得たとしても、直ちにはタイ企業のタイ国内に存在する財産には強制執行ができない可能性があるからです。すなわち、日本の裁判所の判決の効力は、基本的に日本国内でのみ有効であり、必ずしも外国でその有効性が認められて強制執行できるという保証はありません。最悪の場合、もう一度、外国で裁判をやり直す必要が生じてしまうわけです。

一方、国際仲裁機関における仲裁であれば、仲裁条約(ニューヨーク条約)に加盟している国々では有効にその判断が効力を有し、強制執行が可能です。そして、多くの国が同条約に加盟していることから、国際取引では国際仲裁機関による仲裁を紛争解決方法として選択することが一般的になっています。

(紛争解決条項の具体例)
 All disputes, controversies or differences which may arise between the parties hereto, out of or in relation to or in connection with this Agreement shall be finally settled by arbitration in Osaka, in accordance with the Commercial Arbitration Rules of The Japan Commercial Arbitration Association.


仲裁地をどこにするかは、前述の合意管轄条項と同じく労力やコストの問題があるので、大阪の企業であれば、大阪での仲裁が有利になります。例えば、カリフォルニアでの仲裁を合意してしまうと、いざ紛争が起こった時に、カリフォルニアの法律事務所に依頼し、現地まで打合せの度に出張しなければならなくなります。

この点、契約当事者がお互いに自国での仲裁を希望し、交渉が行き詰まった際に、第三国を仲裁地として合意することもあります。例えば、日本企業とアメリカ企業が契約する場合に、どちらの国でもないシンガポールや香港で仲裁する旨の紛争処理条項を付けることがあるわけです。一種の痛み分けですが、どちらかに有利といった事態は避けることができます。

最後になりますが、合意管轄条項や紛争処理条項は、取引条件として議論することはなく、通常、当事者間の交渉では重要視されないのだと思います。しかしながら、いったん紛争が発生した場合には、その紛争解決に大きな影響を与える可能性があります。ほぼ全ての契約書で問題となる条項ですので、契約書を締結する際には日頃から意識してチェックいただくのが良いでしょう。
以上 
                                                                    

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