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企業不祥事と近時のコンプライアンスの考え方

弁護士 礒川剛志

令和6年2月1日更新

1 はじめに
 昨年は、大手中古車販売会社の不正保険金請求事件から始まり、大手芸能事務所の性加害事件、年末には自動車メーカーの認証不正事件など、多くの企業不祥事が話題となった一年でした。いずれの不祥事でも、第三者委員会が設置され、調査報告書の中で、「不祥事の原因は、コンプライアンス意識の鈍麻」といった指摘がなされています。

2 従来のコンプライアンスの考え方の問題点
 従来、コンプライアンスと言えば、「法令順守」という説明がなされてきたように思います。要するに法律や社会規範、ルールを守って会社経営や事業活動を行わなければならないという当たり前の考えということになります。
 しかしながら、このような考え方から、一部の企業では、詳細かつ厳格なルールをたくさん策定し、形式的・表面的なルールの厳守を求めるようになり、結果として「コンプラ疲れ」といった状態が生まれました。また、本来、不祥事が発生した場合に矢面に立つ経営陣や事業部門が「コンプライアンスは、自分たちの仕事ではなく、コンプライアンス担当部門の仕事だ」と、他人事になってしまう傾向もあるように思われます。
 要するに、従来からの「コンプライアンス=法令順守」という考え方では、悪くすると形式主義に陥ってしまうおそれが高いと指摘することができます。

3 近時のコンプライアンスの考え方
 冒頭の企業不祥事の例を指摘するまでもなく、社会の企業を見る目は年々、厳しくなっています。単なる法令順守では、企業防衛としては不十分であると言わざるを得ません。株主、投資家、消費者、取引先、従業員、監督官庁、マスコミ、世論など、企業を取り巻くステークホルダー(利害関係者)からの企業に対する評価(リピュテーション)を如何に守っていくかを考える必要があります。かかる観点から重要なのは、形式的な法令順守ではなく、社会からの要請、ステークホルダーの期待に従った行動を取ることであり、形式ではなく実質的にどのような行動が適切かを考えることがコンプライアンスの本質であるということになります。
 日本取引所自主規制法人は、2018年3月、「上場会社における不祥事予防のプリンシプル~企業価値の棄損を防ぐために」を不祥事予防の取組みのために策定しました。その中で「自社のコンプライアンスの状況を制度・実態の両面にわたり正確に把握する。明文の法令・ルールの順守にとどまらず、取引先・顧客・従業員などステークホルダーへの誠実な対応や、広く社会規範を踏まえた業務運営の在り方にも着眼する。その際、社内慣習や業界慣行を無反省に所与のものとせず、また規範に対する社会的意識の変化にも鋭敏な感覚を持つ。これらの実態把握の仕組みを持続的かつ自律的に機能させる」べきと述べています。

4 まとめ
 以上のとおり、コンプライアンスの考え方も変わりつつあります。例えば、社内ルールの策定に際しても、重箱の隅をつつくような無駄なルールやマニュアルを作るのではなく、基本的な考え方・原則(プリンシプル)を明確に示した上で、敢えて細かいルールは定めず、現場の人たちがそのプリンシプルに基づいてどのように行動するかを適切に判断できるようにするといった対応が必要になっています。

以上 
                                                                    

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