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一票の格差と最高裁判所

弁護士 村上智裕

平成24年11月29日更新

 かつて今ほど、「一票の格差」の問題が注目を集めたことはなかったのはないでしょうか。11月14日の野田首相と安倍自民党総裁の党首討論では「最優先に解決すべき問題」として取り上げられ、同16日には衆参両院の「一票の格差」是正関連法が成立しました。また、ニュースで見る町の声にも「一票の格差を是正すべきだ」というものがあり、問題意識の浸透ぶりには目を見張るものがあります。
 
1 一票の格差の問題とは
 一票の格差の問題とは、選挙制度が憲法に違反していないのか否かを問う、憲法訴訟です。憲法は、14条1項で「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」と、44条で「両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める。但し、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によって差別してはならない。」と規定しており、これら規定から、国民は、国政選挙において、“平等”に票を投じることができることになります。
 では、この“平等”とは何なのか、これを問うのが“一票の格差問題”です。

2 憲法は、投票価値の平等も要求している
 公職選挙法の下、国民は一人1票を投じる“資格”が認められていますが、最高裁判所は、憲法が要求する“平等”には、この“資格”の平等のみならず、“投票価値”の平等が含まれると解釈しています。投票価値とは、すなわち、1人の議員を選出するに当たっての選挙人1人の有する影響力、のことですが、例えば、先の平成21年8月30日施行の衆議院議員総選挙では最大で2.30倍の、また、先の平成22年7月11日施行の参議院議員通常選挙では最大で5.00倍の投票価値の格差が生じていました。

3 最高裁のとる判断の枠組み
 “平等な投票価値を追及すべき”との理念を徹底すれば、投票価値に格差が認められると、即、違憲ということにもなりそうですが、最高裁判所はそのような立場はとりません。一票の格差問題について、最高裁判所は、@投票価値の不平等状態の違憲性についての判断(著しい不平等が生じていた場合に「違憲状態」と判断するものの、「違憲判決」とは区別され、判決としては「合憲判決」とされるレベル1)、A合理的・相当期間の経過の有無についての判断(合理的・相当期間が経過したにもかかわらず、「違憲状態」が是正されない場合に「違憲」と判断し、「違憲判決」を出すレベル2)、B選挙の有効性についての判断(「違憲」となっても直ちに選挙無効とするのではなく、別途、選挙を「無効」とする判断を行うレベル3)、と段階を分けて判断を行うものとみられています。
 このような枠組みで判断を行うのは、最高裁判所が「投票価値の平等を選挙制度の仕組みを決定する唯一、絶対の基準となるもの」とまでは考えていないためです。憲法は、14条や44条で“投票価値の平等”を要求する一方、“どのような選挙制度が国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させることになるかの決定を国会の裁量に委ねる旨の規定”も置いています(憲法45条ないし47条等)。投票価値の平等とは、それらの「国会が正当に考慮することができる他の政策目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきもの」とするのが最高裁判所の基本的な立場です。
 社会的、経済的変化の激しい現代にあっては、容易に人口変動が生じ、それに伴い一定程度の投票価値の不均衡が生じることが避けられません。しかし、一定程度という許容レベルを超え、「投票価値の著しい不平等が生じ、かつ、それが相当期間継続しているにもかかわらずこれを是正する措置を講じないことが国会の裁量権の限界を超えると判断される」場合に最高裁判所は違憲判決を出すことになります。

4 直近の総選挙・通常選挙はいずれも「違憲状態」
 では、現状はどの段階にあるとされているのでしょうか。
 最高裁判所は、先の平成21年8月30日施行の衆議院議員総選挙については「本選挙時において、本件区割基準規定の定める本件区割基準のうち1人別枠方式に係る部分は、憲法の投票価値の平等の要求に反するに至っており、同基準に従って改定された本件区割規定の定める本件選挙区割りも、憲法の投票価値の平等の要求に反するに至っていたものではあるが、いずれも憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとはいえず、本件区割基準規定及び本件区割規定が憲法14条1項等の憲法の規定に違反するものということはできない。」(判決文から引用)と、先の平成22年7月11日施行の参議院議員通常選挙については「平成22年7月11日施行の参議院議員通常選挙当時、公職選挙法14条、別表第3の参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定の下における選挙区間の投票価値の不均衡は、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていた。もっとも、上記選挙までの間に上記議員定数配分規定を改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えるものとはいえず、その規定が憲法に違反するに至っていたということはできない。」(判決理由骨子から引用)と判断しました。また、最高裁判所は、判決文において平成6年以降、衆議院議員選挙で採用されてきた “1人別枠制度”の廃止等を求めており、これは従前の例と比較しても相当に踏み込んだ書き振りです。
 現状は、上述の枠組みのレベル1の違憲状態、つまり、国会が最高裁から選挙制度につき相応の立法措置を促された状態にあるのであり、それ故に、冒頭の党首討論でも一票の格差問題を「最優先に解決すべき問題」と取り上げ、翌々日の16日には是正関連法を成立させるという“一応の”決着がとられたのです。
(次回に続きます)
                                                                    

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