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面会交流に関する審判に基づき間接強制決定をすることができる場合

弁護士 寺中良樹

平成25年9月20日更新

 今回は、少し前になりますが、最高裁第1小法廷平成25年3月28日判決(間接強制申立ての却下決定に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件)を、ご紹介します。
 この判決の判示事項は、裁判所のウェブサイトでは、「監護親に対し非監護親が子と面会交流をすることを許さなければならないと命ずる審判に基づき間接強制決定をすることができる(できない)とされた事例」とされています。

 間接強制というのは、強制執行の一種であり、たとえば判決などで定められた義務を行わない場合、「義務を行うまで、1日につき●円の債権者に支払え。」という、金銭的なペナルティを与える旨の申立をするものです。
 以前は、債務者の財産に対して直接行使する方法(直接強制)や、第三者が代わりに行為してその費用を取り立てる方法(代替執行)ができない場合にのみ、この方法を取ることができるものとされていましたが、平成15年の民事執行法の改正により、金銭債務以外の債務について、比較的広く間接強制の方法を取ることができるものとされました。また、金銭債務でも、養育費や婚姻費用については、間接強制ができるものとされています。

 さて、ご紹介の判例における問題点は、面会交流について間接強制ができるかできないか、ということではなく、面会交流を許す義務が強制執行できる程度に特定できているか、ということです。
 「義務の特定」については、裁判の実務では、時折問題になります。たとえば、「土地上の建物を収去せよ」との判決について、強制執行するとしましょう。強制執行は執行官が行う建前になっていますが、執行官が現場に行ったところ、現場には建物がたくさんあり、判決に「収去せよ」と書かれている建物がどれであるのか、よくわからなかったとします。そうしますと、執行官はどの建物を収去したら良いかわからないので、「特定できない」ことを理由に、強制執行が不能終了してしまいます。登記されている建物でしたら、通常、そのようなことはないのですが、未登記の、たとえば倉庫などですと、このようなことがあり得ます。こうなってしまうと、訴訟で勝訴しても意味がなくなってしまいますので、弁護士は、訴訟提起の際に、「義務を特定」することについては、かなり気を使います。

 この点、ご紹介の判例は、「面会交流の日時又は頻度,各回の面会交流時間の長さ,子の引渡しの方法等が具体的に定められているなど監護親がすべき給付の特定に欠けるところがないといえる場合は,上記審判に基づき監護親に対し間接強制決定をすることができる。」としました。

 これだけを書きますと、当たり前の話のように思えますが、ご紹介の判例が興味深いところは、同じ日に、「面会交流を許す義務の特定」が問題になった3件の事件について、同じ裁判官が判決を下しており、そのうち2件は「特定されていない」、1件は「特定されている」と判断されたことです。つまり、この3件を見ると、「どのように書けば強制執行が認められるか」が、おおむね分かる、ということです。
 以下は、この3件で問題となった条項です。

(@「特定されている」条項)
(1)  面会交流の日程等は,月1回,毎月第2土曜日の午前10時から午後4時までとし,場所は,子の福祉を考慮して非監護親の自宅以外の非監護親が定めた場所とする。
  (2)  子の受渡場所は,監護親の自宅以外の場所とし,当事者間で協議して定めるが,協議が調わないときは,所定の駅改札口付近とし,監護親は,面会交流開始時に,受渡場所において子を非監護親に引き渡し,子を引き渡す場面のほかは,面会交流に立ち会わず,非監護親は,面会交流終了時に,受渡場所において子を監護親に引き渡す。

(A「特定されていない」条項)   
   1箇月に2回,土曜日又は日曜日に,1回につき6時間面会交流をすることを許さなければならない。

(B「特定されていない」条項)    
  (1)  面会交流は,2箇月に1回程度,原則として第3土曜日の翌日に,半日程度(原則として午前11時から午後5時まで)とするが,最初は1時間程度から始めることとし,子の様子を見ながら徐々に時間を延ばすこととする。  
  (2)  監護親は,上記(1)の面会交流の開始時に所定の喫茶店の前で子を非監護親に会わせ,非監護親は終了時間に同場所において子を監護親に引き渡すことを当面の原則とするが,面会交流の具体的な日時,場所,方法等は,子の福祉に慎重に配慮して,監護親と非監護親間で協議して定める。

 Aはともかく、@とBは、どちらも詳しく書いているように見えますが、結論が分かれています。ここから先は技術的な問題になりますが、要するに、似たようなことを書いているように見えても、書き方によって、間接強制できるかどうかが異なってくることには、注意しなければなりません。
                                                                    

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