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不動産に関する最近の裁判例 -いわゆる買取仲介について-

弁護士 水口哲也

平成25年12月5日更新

(事案)  
 Y社(不動産業者)は,Xさんから甲土地を処分してお金にしたいという相談を受けました。なお,XさんとY社は旧知の仲でしたので,特に契約書の調印を行いませんでした。
 Y社は購入者を探していたところ,Xさんから依頼を受けた8ヶ月後にAさんから甲土地を購入したいという申し込みが有りました。
 Y社は,当初,Xさんとは媒介契約を締結していなかったため,Xさんから1500万円で甲土地を購入し(以下,本件売買契約といいます。),同日,Aさんに甲土地を2100万円で転売する旨の売買契約書を調印しました(以下,本件転売契約といいます。)。
 本件売買契約には瑕疵担保責任を免除するなどといった特約は一切ありませんでした。また,甲土地の固定資産評価額は1100万円程度である一方,路線価では2100万円程度でした。

 (問題の所在)
 上記事案は,いわゆる買取仲介の事案です。
 仲介手数料については,上限が決められている一方(宅地建物取引業法46条),不動産業者が不動産の転売を行う場合には法律上,金額的な規制がありません。そこで,法形式上,仲介と売買のいずれも選択できるような場合に,売買を選択することができるのかという問題は常に生じうるところです。

 (裁判所の判断)
 上記事案は,福岡高裁平成24年3月13日の事案を簡略化したものです(Xが原告,Yが被告です)。福岡高裁は,以下のように判示し,XのYに対する請求を認めました。
宅建業法46条が宅建業者による代理又は媒介における報酬について規制しているところ,これは一般大衆を保護する趣旨をも含んでおり,これを超える契約部分は無効であること(最高裁昭和44年(オ)第364号同45年2月26日第一小法廷判決・民集24巻2号104頁参照)及び被控訴人らは宅建業法31条1項により信義誠実義務を負うこと(なお,その趣旨及び目的に鑑み,同項の「取引の関係者」には,宅建業者との契約当事者のみならず,本件のように将来宅建業者との契約締結を予定する者も含まれると解するのが相当である。)からすれば,宅建業者が,その顧客と媒介契約によらずに売買契約により不動産取引を行うためには,当該売買契約についての宅建業者とその顧客との合意のみならず,媒介契約によらずに売買契約によるべき合理的根拠を具備する必要があり,これを具備しない場合には,宅建業者は,売買契約による取引ではなく,媒介契約による取引に止めるべき義務があるものと解するのが相当である。
「媒介契約によらずに売買契約による利点が本件取引において存在したかについて検討するに,スピードについては,XがY社に対し本件物件を売却したいとの意向を示したのが平成13年1月であるのに対し,本件売買契約が締結されたのは同年9月11日であることからすれば,この点についてXに利益がもたらされたとはいえない。」
 「確実性についても,本件売買契約締結は,本件転売契約締結と同一日に行われているのであり,これら契約締結がなされるまで,Y社がXとの売買契約を解消する余地は残されていたことからすれば,本件取引において当該利点が存在したものと認めることはできない。」
 「安心感について,本件取引において本件物件は現況有姿のままで取引されており,商品化のコスト等は不要であった。また,本件売買契約には,Xの瑕疵担保責任の減免について何ら記載がなく,当該契約上はXに有利な条項が含まれているものとは認められない。
 Y社が主張する本件物件の問題点(本件土地上に老朽化した本件建物があること,本件土地に通じるガス管・排水引込管が隣地に権限なく埋設されていること及び隣地への越境あるいは境界紛争の存在。)については,上記のとおり,本件転売契約における特約とするか,重要事項説明書に予め記載することにより隠れた瑕疵には当たらないものとして瑕疵担保責任の対象から除外する措置が執られている。また,本件全証拠によるも,これにより本件転売契約におけるY社とAとの交渉が難航したなどの事実は認められず,同契約における売買価格2100万円についても,AはY社が提示した同金額を異議なく受け入れている。」
「さらに,本件取引に際し測量は行われず,本件取引後,本件土地はコインパーキングとして使用されているとの状況によれば,ガス管等の埋設はその使用に際し問題となるものではなかったと認められる。すると,上記問題点が法的紛争として顕在化することの危険性は,本件売買契約締結によらずとも,XとAとの売買契約において,本件転売契約及びそれに関する重要事項説明書と同様に,特約の締結や重要事項説明書における記載により除去できたのであるから,上記問題点について,本件取引による利点の存在を認めることはできない。」
「結局,被控訴人らが主張する本件売買契約締結の利点は,Xにおいて,AではなくY社との間で取引をすることのみとなる。」
「そして,Y社は,XにおいてAが契約当事者となることを避けたかったとするのであるが,その具体的理由は本件全証拠によるも不明である。また,Y社は,Xに対し媒介契約と売買契約の双方について説明した旨供述するが,XからY社に対し,売買契約による旨の意向がどのように示されたかについて明確な供述はなされておらず,他にこれを認めるに足る証拠はないことからすると,Xにおいて,本件物件の売却について,媒介契約と売買契約という2つの選択肢があること及び各契約の利害得失についてY社より説明がなされ,これをきちんと理解した上で本件売買契約締結を選択したかについて,合理的な疑いが残る。」
「以上によれば,Xにおいて,本件物件の売却について,Y社との媒介契約ではなく売買契約により行い,かつY社において,本件取引により,本件売買契約における代金額である1500万円の4割にも及ぶ600万円もの差益を得たことについて,その合理性を説明することはできないから,本件売買契約により本件物件を売却したことについて合理的根拠を具備していたものと認めることはできない。」
「すると,Y社には,少なくとも上記合理的根拠が具備されていないにもかかわらず売買契約である本件取引により本件物件の取引を行った過失が認められるから,Xに対し」「損害賠償をする義務を負うものである。」
 
 (裁判所の分析)
  裁判例の下線部を見ていただければ分かりますように,宅建業者が,その顧客と媒介契約によらずに売買契約により不動産取引を行うためには,当該売買契約についての宅建業者とその顧客との合意のみならず,媒介契約によらずに売買契約によるべき合理的根拠を具備する必要があります。
 一般に,買取仲介を行うことのメリットとしては,ア.代金決済のスピード(売主が早期に代金を取得できること),イ.代金決済の確実性(不動産業者による即金一括払で,購入希望者の融資の審査等の各種停止条件,購入希望者の解約等のリスクが低い),ウ.安心感(商品化するまでのコスト,労力等がなく,瑕疵担保責任等の売却後の紛争発生のリスクが低い)などがあると言われ,実際にも本件で,Y社はその点の主張を展開していました。
 ところが,事案を見ていただければお分かりのように,本件では,本件売買契約と本件転売契約が同日に行われており,ア.代金決済のスピード,イ.代金決済の確実性については,メリットにはなりません。
 ウ.安心感については,本件売買契約において瑕疵担保責任を排除する規定すらおいておらず,結局,本件では,売買契約という法形式を取った合理的な理由はなく,裁判所にY社が過大な利益を得るために売買という法形式を選択したと判断されてもやむを得なかった事案といえます。
 では,Y社は,どうすれば良かったのかといえば,依頼のあった時点でXとの間で売買契約を締結しておくべきであったと思われます。そもそも,売買契約なのか,媒介契約なのか確定させずに購入希望者を探していたY社の取引姿勢に問題がありました。
 転売購入者であるAさんをY社が見つけた以降については,最早,売買契約を選択することはできず,媒介契約を選択するのが無難と言わざるを得ないでしょう。
 売買契約を選択して,瑕疵担保責任を免除する旨の特約など,Xにメリットのある特約を入れるということは考えられなくはないですが,その場合には,Aさんから瑕疵担保責任を追求された場合にY社も大きなリスクを負うことになりますし,瑕疵担保責任を免除する特約を入れたからといって,必ず合理的な根拠があると認定されるとは限りません。判明している不具合については,裁判例で認定しているように,重要事項説明書に記載してしまえば,瑕疵担保責任の問題はなくなりますから,本件売買契約と本件転売契約の各代金に600万円の差額があるというデメリットと瑕疵担保責任を免除すること等のメリットを比較考量して合理的な根拠があると言えるかどうかは微妙な問題でしょう。
 結局,不動産の処分の依頼を受けた段階でできるだけ早期に契約書を締結することが無難である,という至極当たり前のことになります。

                                                                    

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