クラウドフレア事件一審判決(弁護士 寺中良樹)
私は、2022年のリーガルトピックスで民事訴訟のIT化について、2023年のリーガルトピックスで民事訴訟以外の民事手続のIT化について、ご紹介しました。
民事訴訟の全面的なデジタル化に関する改正民事訴訟法は、ことし2026年の5月に全面施行されます。2020年2月に争点整理をウェブ会議で行う試行が始まってから約6年をかけて、段階的に民事訴訟のIT化が進められてきました。現在では、証拠調べ(証人出廷)以外のほとんどの民事訴訟手続がウェブ会議で行われるようになり、弁護士が裁判所に行く機会が激減しました。全面施行後は、裁判所に提出する書類もすべてインターネットを通じて提出するようになります。
また2023年のリーガルトピックスでは、私は「家事事件でウェブ会議をしたことがない」旨を書きましたが、その後、家庭裁判所でもウェブ会議が利用されることが多くなりました。ただしこちらはまだ家庭裁判所に出頭する機会も多く、私の場合、地方裁判所よりも家庭裁判所に行く方が多いという感覚です。
さて今回は、東京地裁令和7年11月19日判決(令和4年(ワ)第2388号)をご紹介します。巷では被告の名前を取って「クラウドフレア事件」と呼ばれているものです。
2016年ころから、インターネット上に「漫画村」という海賊版漫画サイトが開設され、次第に巨大化して、莫大なデジタル漫画が違法にアップロードされていました。これが社会問題となり、2018年4月には日本政府が「漫画村」を含む3サイトを名指しし、プロバイダに対して接続遮断を促す方針を固めたと報じられ、その後間もなく「漫画村」が閉鎖されるという事態となりました。「漫画村」の運営者は2019年に著作権法違反で逮捕され、その後実刑判決を受けました。この事件は、リーチサイト規制(違法サイトへのリンク情報の提供などの違法化)やダウンロード違法化の拡大といった2020年の著作権法改正の契機ともなりました。
また被害に遭った日本の出版大手4社(KADOKAWA、講談社、集英社、小学館)が「漫画村」の運営者に対して損害賠償請求を行い、17億3000万円以上の支払を命じる判決を得ました。その他、被害に遭った漫画家の一人である赤松健さんが「漫画村」に広告を出していた広告代理店に損害賠償を求め、認められました。
本件の被告であるクラウドフレア(Cloudflare)社は、「漫画村」がCDNサービス(ウェブサイトの高速化やセキュリティサービス)を利用していた米国IT業者です。KADOKAWAら4社は、主位的に、被告が公衆送信の主体であるとして著作権(公衆送信権)侵害を理由とした損害賠償を、予備的に被告が運営者の著作権侵害行為を幇助したことを理由とした損害賠償を求めました。
本判決は、主位的請求を否定した一方で、被告が運営者の著作権侵害行為を幇助したことを認め、被告に対して損害賠償を命じました。
本件では被告は自ら画像をアップロードしているわけではないのですが、著作権法の世界では、物理的に侵害行為を行っている者でなくとも権利侵害の主体であると判断されることがあります。たとえば、日本国内の親機で録画した放送番組を海外等の子機に複製し視聴できる装置やサービスの販売(提供)を行った者が著作権侵害行為の主体であると判断された事案(最高裁平成23年1月20日判決「ロクラクⅡ事件」)があります。そこで原告らは、本件の被告も著作権侵害行為の主体であると主張したのですが、判決は結論として本件の事情のもとでは被告が侵害行為の主体であるとは認めませんでした。
一方判決は、「漫画村」のアクセス数が月間最大3億回を超え、そのほとんどがキャッシュ型配信(被告が管理するサーバに蓄積されたキャッシュデータからの送信)であったことや、被告の利用者本人確認手続が簡略化されていたため運営者の匿名性が確保されることになったことなどから、被告のCDNサービスの提供が運営者の著作権侵害行為を容易にしたと判断しました。
また、「漫画村」ウェブサイトが海賊版サイトであることは一見して明らかであったことや、原告らが被告に対して「漫画村」が著作権を侵害していることを通知していたことから、被告の過失を認め、原告らの被告に対する損害賠償請求を一部認容しました。
現在、SNSを利用した詐欺や掲示板上の誹謗中傷なども含めて、インターネットを通じた権利侵害がひどいことになっています。インターネット上の権利侵害の特徴は、まず侵害者の身元を割り出すことが難しいことです。被害の多さと侵害者の匿名性が被害回復を困難にし、さらに侵害者を増長させることになっていると感じます。これらの情報流通により大きな利益を得ているインターネット上のプラットフォーマーには、是非、この状況を改善するための積極的な対策を講じてもらいたいところであり、過失による幇助の理屈を使って、対策を講じないプラットフォーマーの責任を問うていくという方向性については、私は賛成です。
ただし一方で、民法上の幇助者の責任は、故意過失を問わず、基本的には不法行為者と同じです。これは、刑法上、幇助犯は故意犯のみであり、また罪責も正犯の罪から減軽されることと対照的です。何をすれば「幇助」とされて責任を問われるのか、法律の上では明確ではありません。この点は、先例を積み重ねることにより明らかにしていく必要があると思います。
以上