ダブルワークの労働時間及び割増賃金の考え方について(弁護士 谷岡俊英)
昨今、収入の増加のために副業・兼業を希望する労働者が増えており、企業側も副業・兼業を認めるところが増えています。
複数の職場で勤務することになると労働時間が増えることになりますので、その時間管理は非常に重要となります。
そこで、ダブルワークの場合の時間の考え方、残業代の考え方についてご説明させていただきます。
1.労働時間の考え方
労働基準法第38条では「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と規定されています。
ここで「事業場を異にする場合」には事業主を異にする場合も含みます。
複数の会社で勤務した場合、労働時間は通算しますので、労働時間は各会社で勤務した労働時間を全て足した時間となります。
そのため、労働時間を通算した結果、労働基準法32条又は第40条に定める法定労働時間を超えて労働させた場合には、使用者は割増賃金を支払わなければなりません。
2.割増賃金の支払の考え方
では、割増賃金を具体的に支払うのは誰になるのでしょうか。
結論から述べると、当該労働者を使用することにより法定労働時間を超えて当該労働者を労働させるに至った使用者(それぞれの法定外労働時間を発生させた使用者)がその義務を負うことになります。
通常は、通算により法定労働時間を超えることとなる所定労働時間を定めた労働契約を後から締結した使用者がその義務を負うことになります(他の事業場で当該労働者が既に勤務していることを確認の上で契約を締結しているためです)。
もっとも、既に通算した所定労働時間が既に法定労働時間に達していることを知りながら労働時間を延長するときは、先に契約を締結していた使用者も含め、延長させた使用者がその義務を負います。
わかりにくいため、以下の例で説明をします。
①A社で1日8時間とする労働契約の締結を行い、B社で1日3時間とする労働契約を締結し、その契約どおりに勤務した場合(A社との契約が先行)
A社での所定労働時間は8時間で、法定労働時間内の労働ですので、A社には割増賃金の支払義務はありません。
一方、B社での労働開始段階において、既にA社において法定労働時間の8時間に達していますので、B社での労働は全て法定時間外労働時間となります。
そのため、B社で勤務する3時間は全て法定時間外労働となり、B社は割増賃金の支払義務を負います。
②A社での勤務が月~金の1日8時間とする労働契約の締結を行い、B社で土曜日を勤務日とし、労働時間を3時間とする労働契約を締結し、その契約どおりに勤務した場合(A社との契約が先行)
A社での1日の労働時間は8時間であり、勤務日は月~金の5日であるため、週の労働時間も40時間となりますので、法定労働時間の労働であり、A社には割増賃金の支払義務はありません。
一方、B社での労働開始段階において、既にA社において法定労働時間の週40時間に達していることから、B社での労働は全て法定時間外労働時間となります。
そのため、B社で勤務する3時間は全て法定時間外労働となり、B社は割増賃金の支払義務を負います。
③A社と1日6時間とする労働契約を締結した後に、B社と1日2時間とする労働契約を締結した場合に、A社で8時間、B社で2時間の労働をした場合(A社との契約が先行)
A社とB社で労働契約どおりの労働をした場合、1日の労働時間は8時間となり、法定労働時間内の労働となります。
A社は既に通算した所定労働時間が既に法定労働時間に達していることを知りながら2時間も延長して労働をさせていますので、法定労働時間を超えて労働をさせたA社が割増賃金の支払義務を負うことになります。
④A社と1日4時間とする労働契約を締結した後に、B社と1日3時間とする労働契約を締結した場合に、A社で5時間、B社で4時間の労働をした場合(A社との契約が先行)
A社とB社で契約通りの労働をした場合、1日の労働時間は7時間となり、法定労働時間内の労働です。
この場合、A社が労働時間を1時間延長したとしても、A社での労働が終了した時点ではB社での所定労働時間も含めた1日の労働時間は法定労働時間内(5時間+3時間=8時間)であるため、A社は割増賃金の支払義務を負いません。
B社で生じた1時間は法定時間外労働となり、B社が割増賃金の支払義務を負います。
3 最後に
このように、ダブルワークの場合の労働時間の考え方には少しわかりにくいところがありますので、何か疑問に思う点があればすぐにご相談いただくことがよいと思います。
以上